2011年11月

Bな国ニッポン!

B層。この素晴らしき単語が世に出回ってからどれほどの歳月を経たであろうか。当ブログの読者諸賢であれば、この単語の示す意味を知らぬ人は居ないと思うが、私がここでいちいち説明するのも面倒なので、手抜きと自覚しつつも念の為ウィキから引用しておく。『B層(―そう)とは、郵政民営化の広報企画にあたって小泉政権の主な支持基盤として想定された、「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」のこと。広義には政策よりもイメージで投票を行うなどポピュリズム政治に吸引される層を意味する 2005年小泉内閣の進める郵政民営化政策に関する宣伝企画の立案を内閣府から受注した広告会社スリード」が、小泉政権の主な支持基盤として想定した概念である。その後、ポピュリズムに動員される国民層を揶揄する意味合いで使われるようになった』という事である。なんと見事に的を射た分析と命名だろう。私はこのB層という単語とその意味を知った時、暫しの間笑いが止まらなかった。そして、では日本社会に跳梁跋扈するB層人とは、このウィキぺディアの解説より更に具体的に如何なる人たちなのか、自らの日常生活の中で調査したのである。以下にその具体例を述べてゆこう。まずは近時の例を挙げよう。Bな人その1。3.11の震災後思わず節電してしまった人。ただ、これに会社ぐるみでの節電などは含まれない。組織的意思と個人的意思は別だからである。Bな人とは、東電や政府が発する情報を鵜呑みにし、本気で節電してしまった人なのだ。(ヤラセ停電節電に関しては、当ブログhttps://www.ontario-ss.com/blog/2011/06/を参照) これらの人たちは批判的精神と自己判断能力が完全に欠落しており、B層の典型と言える。Bな人その2。これもやはり震災を機に、「やっぱり太陽光発電だ!」と思ってしまった人。これはエントロピー増大の法則やエネルギー保存の法則という最も基礎的な物理原則を全く理解できていない人達である。そもそも再生可能エネルギーなど地球上に存在しない事は言うまでもないだろう。再生可能エネルギーなる言葉は、政治家と官僚、体制べったりの悪徳大企業が国民を欺くために作り出した荒唐無稽な妄言としか言い様がなく、ある日突然「やっぱり地球の形状は球体ではなく立方体です」と喧伝しているに等しい。ソーラーパネルを置けば、日陰が出来るという極めて単純な事も想像出来ないのである。Bな人その3。これもまたエネルギー絡みであるが、ハイブリッドカーや電気自動車を買ってしまった人。この場合も、ハイブリッドカーや電気自動車のメカニズムそのものに興味を抱いて買った人や、インチキとは判っていても社会的立場上似非エコを標榜しなければならない人は別だ。Bな人とはこういった自動車を本当にエコだと考えて乗っている人なのだ。電力というものは、何らかのエネルギー源を燃焼、或いは運動(運動も燃焼の一種であるが)させなければ発生出来ない二次的エネルギーであり、近代社会において利用されてきたエネルギーの中で最も効率の悪いエネルギーであることは、どこからどう見ても疑いようの無い事実だろう。ところがBな人は、自動車メーカーの巧妙な宣伝に乗せられてディーラーのショールームに出掛け、ハイブリッドカーや電気自動車の新車を前にすると、前述した科学的常識など何処へやら、契約書にサインしてしまうのだ。Bな人その4。最近スティーブジョブズの伝記を買って読んでしまった人。もうなんと申しましょうか、ミーハーと言おうか、浅はかと言おうか、浮薄と言おうか。この手合は、現代に語り継がれる坂本竜馬や戦国武将の伝記伝説を事実の如く信じ込んでいるおめでたい者と、ほぼ同列の心的傾向にある。代表的な名を挙げれば、司馬遼太郎や武田鉄矢といったところであろうか。歴史上、盛名を馳せた人才について、後年書かれた記録や書物というものは、喩え如何に高名な識者が著そうが、その殆どが書き手の主観に基づく思い込みや想像(創造とも言える)の産物であり、インチキ、ウソ、デタラメを並べ立てた完全なファンタジーとして棄去せざるをえないのは至極当然であろう。「尊敬する人物は?」と問われて、真面目な顔で「織田信長です」と答える様な人は、既に全てが終了しており、ロボトミー手術でも受けない限りB層から脱却する事は不可能なのである。Bな人その5。マイケルサンデルの著作を買って読んでしまった人。スティーブジョブズの伝記を読んでしまった人よりは幾分マシかと感ずるが、これもやはりB層に属する。マイケルサンデルの活動は到底哲学者などと言えるものではなく、あれは『哲学的』テーマを低レベルで論議する、来場者参加型トークショーレベルの単なるエンターテイメントなのだ。あんなものを聴いたり読んだりして哲学を解ったつもりになることほど恐ろしい事は無い。哲学とは社会にとって何の益も齎さない事は勿論、でありながら超の上に超が付くほど難解極まる学問であって、常人の及ぶところではない。たった一つの哲学用語を巡って、様々な学者の見解が百出する奇奇怪怪なる世界なのである。ソクラテスの時代から始まる無数の哲学専門用語を極力精確に領会体得し、哲学特有の論理構築技術を無尽に揮い、狂界を彷徨いながら生涯を賭けて真理に近づかんとする数少ない本物の哲学者に比して、マイケルサンデルの議論、著作はあまりに軽い。それはせいぜい漫才、漫談の類といったところか。いや、優れた漫才や漫談であれば、マイケルサンデルより余程真理に近付いているのかもしれない。しかしながら、マイケルサンデルの著作を嬉々として熟読してしまった者は、その知的好奇心、或いは知的向上心を保持しているという点において、ロボトミー手術勧奨型スティーブジョブズ伝記読者より救いがある。ロボトミー手術とまではいかなくとも、脳に一定度の刺激(かなり強力な電気的刺激と予察される)を与えれば、B層からの脱離は十分に可能である。しかしまあ書店に行けば上記2著が平積みになっているわけであるから、間違いなく売れているのだろう。とてもではないが、私にはこの2著を自分の本棚に並べる勇気は無い。Bな人その6。プロジェクトXを観て感動してしまった人。これは危ない。かなり深刻な、B層の一翼を担うレギュラー陣だ。テレビ番組とは、ニュース番組であろうと報道番組であろうとドキュメンタリー番組であろうと総じて、画面に映り出る全ての出演者を『役者』とする完全な『お芝居』なのだ。番組制作会社は、予め用意された企画意図や台本に沿うように事実を歪曲し、改竄、捏造しながら無理往生とも言える手段を講じ、その企図を達する事が使命なのである。プロジェクトXにしてもそれは全く同様で、あれは実在の人物をモデルにした完全なフィクショナルサクセスストーリーであって、その『作品』は事実とは懸け離れているにもかかわらず、視聴者に対して事実と虚構を混同させる手練手管の限りを尽くして作り上げられた安手の『ドラマ』に過ぎない。そしてその本質は、シルベスタースタローンやスティーブンセガール、チャックノリスといったB級オヤジアクション映画と、さして変わることは無いのである。Bな人その7。大晦日には必ず紅白を観ている人。ヤバイ。極めて重度のB層である。紅白の司会者の、あの小恥ずかしくも異様に晴れがましい所作や、出演者全員の著しく不自然で不気味な笑顔。それは悉皆NHK特有の、気色悪いほどに幼稚な演出の成果であり、その表出なのであろうが、あのテレビの画面から放たれる、えも言われぬ気持ち悪さに、何ら違和感を覚えることなく受容出来る無神経性及び無思考性がB層に突出する性向と言えるのではなかろうか。紅白→行く年来る年コースを漫然と毎歳繰り返しているBな人の目には、この国の現状は決して映らないのである。大晦日の夜、家族で炬燵に入り所在無く紅白を観続けるその光景を想察するに、私は、自らの靭性によって社会を変革することをあっさりと絶念し、その結果としてひたすらの国家への隷属を唯一の生存手段として生きるBな人達に対し、嘆息を伴う限りなき憐憫の情を覚えると同時に、その背後に絶望を観てしまう。Bな人その8。ガンマGTPや尿酸値といった健康診断の結果を必要以上に気にしている人。これは比較的軽度のB層人である。誰しも、病院であれこれ体を調べられ、その結果を盾にこのままでは肝硬変になるぞ、痛風になるぞと脅されれば流石に心配になるのが人情というものだ。しかしその瞬間よく考えなければならない。戦後、日本人の健康状態は飛躍的に向上し、寿命も延びた。健康状態が芳しいということは、病気の人が少ないということである。病気の人が少ないと病院は儲からない。厚生労働省も予算がとれない。困った厚生労働省と病院は、病気でもなんでもない健康な人達を捕まえて無理矢理検査をさせた挙句、自分たちが勝手にでっち上げた健康基準から少しでも外れた結果が出るとあーでもないこーでもないと因縁をつけ、やれ再検査だ、やれ精密検査だと何度も何度も執拗に金を毟り取る。私の周囲には信じられない尿酸値を叩き出しながらも痛風なんぞ何処吹く風、平然とビールをがぶ飲みし、至って健康な人物が何人もいるし、耳を疑いたくなるようなガンマGTPを記録しながら、甚だ健やかに焼酎をあおり続ける猛者は幾らでもいる。尿酸値やガンマGTPという、厚生労働省と医療界が結託し、金欲しさからひり出したガセデータに一喜一憂することの愚かしさに気づきさえすれば、その人はB層から脱することが出来る。更にその時、個人の肉体の健康状態という超トップシークレットである筈の個人情報が、会社や病院が問答無用に押付ける健康診断によって盗み取られていることにも注目しなければならない。そもそも、普段から自分の体調にある程度敏感になっていれば、杓子定規な健康診断など行かなくても比較的早い段階でその異変に気づくであろうし、異変に気づいたら、その時点で病院に行けば良いのである。それで手遅れであったなら、それはそれで仕方が無いし、厚生労働省に食い物にされ、医療界のモルモットにされるより、遥かに健全な人生ではないだろうか。Bな人その9。妻が自分の健康状態を心配してくれる事に一抹の喜びを感じている人。結論を先んずれば、妻が貴方の体を案じているのは、断じて貴方を心配しているのではなく、貴方が働けなくなる事によって収入が絶たれるのを恐れているのである。ウソだと思うなら、今、貴方の近くで夕食後の片付けをしている妻の目をじっと見つめてみるがいい。その妻の目が、僅かにでも泳いだり、狼狽の色を見せたのであるならば、それは私の指摘の正当性を体現したことに他ならない。妻は貴方が死んでしまう事は一向に構わない。むしろそれを望みながらほくそ笑んでいるかもしれない。貴方がポクリと死ねば、しっかりかけていた生命保険金が入る、企業年金も入る、その上遺族年金も入る、更に貴方の献身的な労働によって蓄えられた幾ばくかの預貯金、資産も全て独占できる。それらを合わせて上手く運用すれば、貴方亡き後の妻の人生は順風満帆、安泰なのだ。妻にとって最も困るのは、貴方が中途半端な慢性病に罹患し、元気でもなく死ぬでもなく、会社を首になり、働くに働けない状態で命にしがみ付き、フラフラしながらしぶとく生き続けるという凄惨な事態であろう。妻はそれを極度に恐れるが為に、貴方の健康を気遣うのである。いざとなれば、即座に出奔可能な準備を、妻は常に調えている。夫婦愛や家族愛などどいう砂上の楼閣を頭から信じてノホホンと生きている人は、やはりBな人と言わざるをえない。Bな人その10。健康食品が好きな人。まずもう、「健康食品」という言葉自体がいかにも官僚崩れが捻出した不可解な言葉であることに気づかねばならない。「健康食品」なるものが存在するのであれば、その他の食品は全て「不健康食品」となってしまう。この論理を否定するなら、米も小麦粉も大豆も、いや水でさえ「健康食品」として指定されなければおかしい。「健康食品」とは、厚生労働省がお墨付きを与え、日本健康食品協会なる業界団体が管理する、特段何の効果も発揮することの無い単なる加工食品である。因みに、トクホと言われる特定保健用食品も大同小異だ。言わずもがな、この日本健康食品協会は厚生労働省の天下り団体だ。厚生労働省と日本健康食品協会との間でどのような金が流れているのか、読者諸賢であれば容易に察することが出来るのではないだろうか。健康食品のルーツは、食品を加工する際に止むを得ず生まれる産業廃棄物の有効活用であることを知る人は少ない。こんなモノに高い金を払って健康が保たれていると思っている人は、残念だがベタベタのB層人なのです。B層が大半を占めるこの軽佻浮薄な社会の将来を、私は常に暗澹たる思いで見つめています。しかしながら、最後に思い切って告白致しますと、実のところ私は、スティーブンセガールとチャックノリスの大ファンなのです。かたじけない。

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2005年小泉内閣の進める郵政民営化政策に関する宣伝企画の立案を内閣府から受注した広告会社スリード」が、小泉政権の主な支持基盤として想定した概念である。その後、ポピュリズムに動員される国民層を揶揄する意味合いで使われるようになった[要出典]

なお、スリードの代表を、時の特命担当大臣経済財政政策担当金融担当郵政民営化担当)竹中平蔵に引き合わせたのは秘書官・岸博幸だという[要出典]

スリード社の企画書では国民を「構造改革に肯定的か否か」を横軸、「IQ軸(EQITQを含む独自の概念とされる)」を縦軸として分類し、「IQ」が比較的低くかつ構造改革に中立ないし肯定的な層を「B層」とした。主に主婦や教育レベルの低い若年層、高齢者層を指すものとされる。

上記の企画書がネット等を通じて公に流布されたため、資料中に使用された「IQ」の語や露骨なマーケティング戦略が物議を醸すところとなり、国会でも取り上げられた(後述)。 

 

乞食現る

疎遠になっていた愚友から電話があった。「よお、久し振りだな」 「そうだな、久し振りだ。なんか用か」 「なんだよ、久方振りに電話したってのに、すげない返事だな」 「俺は何時だってすげない人間だ」 「そうだな、お前は冷たい奴だもんな」 「その通り、とても冷たいね」 「まあ、なんだ、最近なにしてる?」 「決まってるだろう。働いてるよ」 「あの変なチッコイ車の修理か?」 「そうだよ、悪いか?それしか出来ないんだから仕方ないだろう。お前みたいに目端が利く性分じゃねえんだ。お前は相変わらずか?」 「まあな」 「あの詐欺みたいな商売まだやってんのか?」 「おい、お前人聞きの悪い事言うなよ。俺の仕事のどこが詐欺なんだよ。人々を幸せな世界に誘う神聖な仕事なんだぞ。愛のキューピット業と言って欲しいね」 「何とでも好きに言えよ。そう言えば6リッターのAMGはどうした?まだ乗ってんのか?」 「ああ、あれな。首都高でダンプのケツに突っ込んで、とうの昔にお釈迦になっちまったよ。でもな、あれ、つまんねえ車だったけど安全性だけは凄い車だぞ。かなりのスピードで突っ込んだんだけど、俺かすり傷一つなかったからな。メルセデスじゃなかったら今頃俺の頭の上にはワッカが付いてただろうな」 「もううっすらワッカが見えてるよ。それで今何乗ってるんだ?」 「ダッジバイパー」 「奢侈な野郎だ」 「シャシってなんだ?」 「お前は相も変わらずモノを知らねえな。贅沢って意味だよ贅沢!たまには本の一冊も読めよ」 「本なんか幾ら読んだって銭にならねえから読まねえよ。それよりなんだ!テメエこそ気取った言葉を使いやがって。素直に贅沢って言やあいいじゃねえか贅沢って」 「しかしまあ、AMGをぶっ潰してダッジバイパーに乗り換えるって、随分と景気の好い話だな。お前のそのお見合いパーティー企画業ってのはよっぽど儲かるんだな」 「なんか棘のある言い方だな。俺が悪い事して稼いでるみたいじゃねえか」 「そうだよ、だから俺は詐欺みたいなもんだって言ったんだ」 「あっ、お前また詐欺って言いやがったな!もう一度言ったら承知しねえぞ!」 「上等だ。大抵の人間はな、後ろ暗い、痛い所を衝かれると己を正当化しようと必死になるんだな。お前もまだまだ半ちく野郎だ。俺なんかな、相手に何を言われようと全て認めてしまうんだな。その通りですってな。だから他人に何を言われても動じないでいられるんだ」 「また何時もの小理屈が始まったな。つまらねえ野郎だ」 「そうだ。俺はつまらない人間だ」 「あー憎たらしい!」 「仰せの通り。俺は憎憎しい人間だね」 「くそったれ!気に入らねえが今日のところは勘弁してやろう」 「勘弁して頂かなくて結構」 「勝手にしろ!ところでな、今度年収2000万以上の男を集めてな、それに群がってくる女とのお見合いパーティーをやるんだよ」 「ほーう」 「それでな、まあとにかく年収2000万以上だからさ、BGMに生の弦楽四重奏かなんか入れたいわけよ。クラシックってやつな。そこでだ、お前にその弦楽四重奏団を紹介して欲しいんだよ。お前そういうの知ってるだろ?弦楽四重奏できる奴ら」 「知ってるよ」 「じゃ、紹介してくれよ」 「ヤダね」  「即答でNGはねーだろ。ホントテメエは冷てえ奴だな」 「俺が冷たいって事はさっき既に認めてるだろう。何度も言わなくても分かってるよ」 「はいはい、わかりましたよ。まあ、四の五の言わずに兎に角紹介しろっ、弦楽四重奏をさ」 「詐欺の片棒担ぐのは御免蒙るね」 「だから詐欺じゃねえって!こりゃあ歴としたビジネスなんだよ!」 「ビジネスねえ。大したもんだよ蛙の小便。じゃあな、紹介しても良いが条件がある」 「金か?金なら少ししか出せねえぞ。お前にがっぽり取られたら俺の儲けが少なくなっちまうからな」 「バカ野郎。お前みたいな吝嗇から金を取ろうなんて考えてねえよ」 「じゃあ何だ。何が条件なんだ?」 「、、、、、、、俺をそのお見合いパーティーに参加させろ」 「おいおい、お前無茶言うなよ。俺の話聞いてなかったのか?年収2000万以上の男しか駄目なんだぞ。お前みたいな貧乏人無理に決まってるだろ!それにお前昔っからパーティー毛嫌いしてたじゃねえか!無理無理」 「見損なって貰っちゃあ困るぞ。俺が鼻の下伸ばして本気でお見合いしようとなんて思ってるわけねえだろ。俺はな、見合いなんてものをしなけりゃ女の一人も捕まえられない様な年収2000万以上のむくつけき男にだよ、どんな馬鹿面提げた女達がたかって来るのか見てみたいんだよ。向学の為にな。この目で」 「そりゃな、確かにお前の言うとおり面白えもんだよ。俺もな、一応司会者って立場で何時も現場に居るけどな、それはそれは腹抱えて笑いたくなるような事もしばしばだよ」 「それみろ、やっぱり面白えんじゃねえか。詐欺師の馬脚を露しやがったな!参画せんとの思い益々強くなりけり。参加させろ」 「うーん、困ったなあ。どう見てもお前が年収2000万以上の男というには無理がある。だいだいお前はその風情が貧乏臭えんだよ。なんて言うのかなあ、そこはかとない貧乏臭さが体に纏わりついているっつうのかな。しかしなあ、弦楽四重奏団を紹介してもらわなきゃマズイしなあ。あ、それにお前タキシードとか持ってんのか?」 「タキシードぐらい持ってるよ。昔浅草橋で買った赤いやつ」 「ホントにテメエは人を舐めてんな。赤のタキシードだと?そんなもん今時キャバクラの呼び込みだって着てねえよ。お前は高島忠夫か!このバカ!」 「まあさ、なりなんてどうでもいいじゃねえか。端っこの方で大人しくしてるからさ。参加させろよ」 「仕方ねえなあ、ホントに大人しくしてろよ。なんかちょっとでもやらかしたらつまみ出すからな!」 「はい、大人しくしています」 とまあ斯様な顛末の後、私は『年収2000万オーバージェントルマンVSそれに群がるフーリッシュレディのお見合いバトルパーティー』の末席を汚す事になったのである。端からタキシードなんぞ着込んで行くつもりはなく、私は銀座のザラで買った3000円位のポロシャツにマッコイズのジーンズ、それにミルリーフのスニーカーという恐ろしくラフな出で立ちで会場に向かった。ただ、いくらなんでもこのザマで年収2000万以上と言い張るには説得力に欠けると考えた私は、時計コレクターの金満友人からゴールドのパテックフィリップを無理矢理拝借し、ちゃっかり右手首に巻き付けていたのである。さて、会場である都内某ホテルに着くとその入り口で、「おいJ!ちょっと待て!お前どっかで着替えるんだろうな!まさかその恰好で入ろうったって俺が入れねえぞ!ドレスコードってもんを知らねえのか!」、と企画及び司会者である愚友から待ったがかかった。「まあ、待て待て。落ち着きたまえ。私の右手首を見たまえ、ほれ!」 「あ!パテック!スゲエ!お前こんなの持ってたの?」 「ふふふ、恥ずかしながら借り物です。でもさ、このカジュアルな服装にパテックってのがそれとなく年収2000万以上の雰囲気を醸し出してるだろ?」 「うむむ、そう言われてみればそう見えんこともないような気がするなあ」 「そうだろ?俺だってちゃあんと考えて来たんだ」 「そうか、じゃ、その借り物のパテックに免じて入場を許可する」 「偉そうな言い方しやがって。今日の弦楽四重奏は誰が呼んだと思ってるんだ!」 「わかってるよ、感謝してるよ。ところでお前車何処に停めてきた?」 「車?自転車だよ自転車。通りの標識にくくり付けてきた」 「お前なあ、みんな運転手付の車で来てるんだぞ。お前にそこまで要求しないけど、せめてハイヤーで来いよ。誰が見てるか分かんないぞ」 「それは気が付かなくてスマンスマン。つい何時もの癖で自転車に跨ってしまった」 「まあ兎に角名札付けて中に入って座ってろ。一番奥の端だぞ端!」 「了解了解」 私が会場に入ると既にメニーマニージェントルマンはお揃いの様で、その人数は6人。私を入れて7人である。思っていたより年齢層は高い。皆40代後半以上と見られ、どう見ても私が一番年下だ。私は軽く会釈をしながら自席に着いたが、特に誰も私の服装を気に留めることも無く談笑を続けていた。司会である愚友のアナウンスが入った。「それでは皆さん。男性陣がお揃いの様ですので、女性陣に入場していただきます。拍手でお迎えください!」 パチパチパチパチ。来ました!来ました!馬鹿馬鹿しいくらいに着飾った乞食根性丸出しのタカリ女達がぞろぞろと!数えたところ11人。御面相にバラつきはあるが年齢層は男性陣に比して若い。25~30歳前後といったところか。女性陣着席の後、お互いに簡単な自己紹介を済ませ軽い食事が始まる。向かい合わせに座った男性陣と女性陣。明らかに場違いで貧相な私に話しかけてくる女性などいないだろうと、チーズでも齧りながら末席で聞き耳を立てるのを楽しみにしていたのだが、それは甘かった。男性陣より女性陣のほうが人数が多い為、どうしても止むを得ず私のようなカス男にも話しかけてくる。その勢いたるや、まあ貪欲なこと凄まじい。(さては、これが近頃巷で噂の肉食系女子って奴だな) 「初めましてEです」 「あ、どうも初めましてYです」 「素敵なデザインのポロシャツですね」 「えっ、これ安物ですよ。銀座のザラで3000円くらいで買ったんですよ」(あっ、イカンイカン、ホントのこと言っちゃったよ。貧乏がバレちゃうよ) 「え~、でも似合ってれば値段なんて関係ないですよ~。とってもお似合いですよ」(けっ!この女かなり場馴れしてるな) 「安物着ててもそんな風に言ってくれるなんて優しいなあ、ハハハ」 「どちらにお住まいなんですか?」(はい、出ました。いきなりの資産チェック) 「広尾です」 「すごお~い!広尾なんて住んでみたいな~」(ウソに決まってんだろアホ!) 「昔から広尾なんですか?」 「いえ、生まれたのは成城で、ずっと成城に居たかったんですが仕事が忙しくなってきたので都心に近いほうが便利かなあと。それで6年前に広尾に家を建てたんです」 「えっ、一戸建てなんですか~、素敵すぎる~」(大ウソだよ大ウソ。バーカ) 「車屋さんって言ってましたけど、やっぱり車好きなんですか?愛車は何ですか?」(ったく、このバカ女金目の物にしか興味ねーのかよ!) 「勿論車は大好きですよ。僕の愛車はブロンプトンです」 「へえ~、ブロンプトンっていう車があるんですね!知らなかった~外車ですか?」(ブロンプトンは車じゃねーよ!チャリだよチャリ!) 「イギリス車です」 「イギリス車っていうとジャガーとかアストンマーチンしか知らなかったです~。私車のことあんまり詳しくないから」(だからチャリだっつーの!) 「ブロンプトンって速いんですか?」 「まあ、それは乗り手の腕次第じゃないでしょうか」 「Yさんって車屋さんだから運転上手いんじゃないですか?速そう」 「僕がキレると速いですよ」 「キレると速いって、、、、Yさん面白い~」 「いや、別に笑わせようと思って言ったんじゃなくて、僕がキレると速いってのはホントですよ。外堀通りのね、水道橋から御茶ノ水にかけての上り坂なんて、ブロンプトンでグイグイ上っちゃいますね」 「あの~、さっきから気になってたんですけど、その時計パテックフィリップですよね?」(この銭ゲバ女め!やはり目ざといな。始めから気付いてやがる!) 「そうです。二十歳の誕生日に祖父からプレゼントされた物です。それ以来ずっと使ってます。もう古いばかりで」 「そういうお話って素敵ですね。良いものを永く使うってすばらしい事だと思うんです」(おいおい、こんな成金時計ウチのジーサンが買ってくれる訳ねーだろ。ウチのジーサンは俺が二十歳の時にゃ既にあの世に逝ってたよ。ダチに無理矢理借りてきたんだよ!このオタンコナス!あー、もういい加減バカらしくなってきた。適当なところで切り上げよう) 「すみません。ちょっと御不浄に失礼します」 私は手水場に行くふりをして席を立った。入り口付近でタバコを吸っていた司会者愚友を捕まえ、「いやー、堪能させてもらったよ。面白かった」 「なんだ、もう帰るのか」 「うん、もう十分十分。あんな金の亡者のすれっからしバカ女とな、これ以上話してるとこっちの脳ミソまで腐っちまいそうだよ。大変勉強になりました。ありがとよ」 「まあ、お前は元々ここに居る筈のない男だからな。帰るなりなんなり好きにしろよ」 「はい、では御暇致します。ではこれにて」 「じゃあな」 私は愛車ブロンプトンに跨り会場を後にした。短時間とは言え、物乞い女達との陰湿な戦いに疲れ果てた私が帰路、水道橋から御茶ノ水にかけての上り坂を、愛車ブロンプトンで全く上れなかったのは言うまでもないだろう。それにしても、浮世とは謎多き園である。あんな寄生虫の如き女たちと所帯を持たんとする男達が蠢いているのだから。破鍋に綴じ蓋、蓼食う虫も好き好き、といったところでしょうか。

 

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