2012年2月

真実への畏れ

「うーらの畑でポチが鳴くー、正直爺さん掘ったらばー、おーーばーんーこーばーんーがーザーックザーックザックザク」言わずと知れた『花咲か爺』の唄である。こういった昔話の内容の記憶は意外と曖昧になっている場合が多いのではないかと思われる。であるからして、念のためそのあらすじを引用しておこう。《心安らかで堅実に暮らす心優しい老夫婦が、一匹の白い仔犬を拾いわが子同然にかわいがって育てる。あるとき犬は畑の土を掘りながら「ここ掘れワンワン」と鳴き始める。驚いた老人が鍬で畑を掘ったところ、金貨(大判・小判)が掘り出される。 老夫婦は喜んで、近所にも振る舞い物をする。それをねたんだ隣人夫婦は、無理やり犬を連れ去り、財宝を探させようと虐待する。しかし犬が指し示した場所から出てきたのは、期待はずれのガラクタ(ゲテモノ·妖怪欠けた瀬戸物)だった。 隣人夫婦は犬を鍬で殴り殺し、飼い主夫婦にも悪態をついた。わが子同然の犬を失って悲嘆にくれる夫婦は、死んだ犬を引き取り、庭に墓を作って埋める。 そして雨風から犬の墓を守るため、傍らに木を植えた。植えられた木は、短い年月で大木に成長する。やがて夢に犬が現れて、その木を伐り倒して臼を作るように助言する。 夫婦が助言どおりに臼を作り、それで餅を搗くと、財宝があふれ出た。再び隣人夫婦は難癖をつけて臼を借り受けるが、出てくるのは汚物ばかりだった。 激怒した隣人夫婦は、斧で臼を打ち割り、薪にして燃やしてしまう。夫婦は灰を返してもらって大事に供養しようとするが、再び犬が夢に出てきて桜の枯れ木に灰を撒いてほしいと頼む。 その言葉に従ったところ花が満開になり、たまたま通りがかった大名が感動し、老人をほめて褒美を与えた。このときのセリフは『枯れ木に花を咲かせましょう』である。やはり隣人夫婦がまねをするが、花が咲くどころか大名の目に灰が入る。 悪辣な隣人は無礼をとがめられて罰を受ける》。 何処の馬の骨が捻り出した話か知らぬが、こういう安直な美談ほど怪しいものはない。怪しすぎる。まず物語の冒頭、「心優しい老夫婦」は、いきなり大判小判を見つけそれを懐に入れる。私に言わせれば、これは歴とした犯罪であり、「拾得物横領罪」(一年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)である。いかに己の畑から出てきた物であろうと、所有者が判然としない金品をシメシメとばかりネコババしてしまう爺と婆のどこが「心優しい老夫婦」なのであろうか。然るべき所にきちんと届け出るのが筋だろう。冒頭のこの一節で、既にこの昔話の怪しさは頂点に達している。私は、この物語の真相は次の様なものだったのではないかと推察する次第だ。まず、話中の「心優しい老夫婦」を「G老夫婦」、「妬み隣人老夫婦」を「NG老夫婦」とする。《「G老夫婦」は終始穏やかな笑顔を絶やさず、柔らかい物腰を装ってはいたが、その正体たるや甚だ狡猾で卑怯な人物であった。一方、「NG老夫婦」は、その無愛想で陰気な性格が災いして近隣の住民から疎んじられていたが、よくよく話をしてみれば、極めて実直で誠実な人柄であった。或る日、「G老夫婦」が一匹の薄汚い病気持ちの仔犬を拾ってきた。「G老夫婦」は、自らが連れ帰ってきた仔犬であるにもかかわらず、餌をやるでもなく、水をやるでもなくほったらかしていた。それを知った「NG老夫婦」は仔犬を大変不憫に思ったが、下手に餌でもやろうものなら何を言われるか分からないと考え、ただただ傍観するのみだった。すると、空腹に耐えかねた仔犬は時折「NG老夫婦」の畑に侵入し、作物を盗み食いしていた。勿論「NG老夫婦」はそれに気付いていたが、仔犬が喰う量など高が知れていると、黙認していた。或る時、仔犬が飼い主である「G老夫婦」に、たまには餌をよこせとばかりに「ワンワン、ワンワン」としつこくせがんだ。「G老夫婦」は「全くうるさい仔犬だ!それ以上吠えると穴を掘ってうめてしまうぞ!」、と畑に穴を掘り始めた。さてどうした事か、掘り始めた穴からこれでもかと言わんばかりの金子が現れたのである。「G老夫婦」は、その一部始終をじっと見ていた「NG老夫婦」に詰め寄り、「この金子はわしらが昔埋めたものじゃ!自分の物を自分で掘り出して何か悪いか!」、と虚言を弄し恫喝した。「NG老夫婦」は、その恫喝にとりたてて反応する事もなく黙々と野良仕事を続けた。それから暫くの時が経った或る朝、例によって仔犬が「NG老夫婦」の畑に作物のおこぼれにあずかろうとやってきた。ところが、既に収穫を終えてしまった「NG老夫婦」の畑に作物は何も残されていなかった。当てが外れた仔犬は、畑の端に肥壺用の穴を掘っていた「NG老夫婦」の所に来て「ワンワン」と食い物の催促をした。いくら催促されても無い物は無い。「NG老夫婦」はどうする事も出来ず、腹を空かせた仔犬を尻目に肥壺用の穴を掘り続けた。穴を掘っていると、割れた瀬戸物やら壊れた薬缶が出てきた。物を大切にする「NG老夫婦」は、こんなガラクタでも何かに使えないかと、その瀬戸物や薬缶を綺麗に拭いていた。すると、食い物の催促を無視されたと思った仔犬が逆切れし、あろうことか「NG爺」に噛み付こうと襲い掛かったのである。これに驚いた「NG爺」は、襲い掛かる仔犬を振り払おうとしたところ、その手に持っていた薬缶が見事仔犬の脳天に命中してしまった。仔犬は目から星を出してバッタリと倒れ、そのまま昇天した。不測の事態とはいえ、他人様の犬を殺めてしまった「NG老夫婦」は、たいして仔犬の面倒もみていなかったくせにここぞとばかり怒り狂う「G老夫婦」に平伏して侘びを入れ、せめてもの贖罪をと全財産をはたいて仔犬の墓を建てた。しかしそれでも良心の呵責に苛まれた「NG老夫婦」は、自分達の土地に生えていた一番太い木を切り倒し、立派な臼を拵えて一所懸命に餅を搗いた。そして搗いた餅を町で売り、金子に換え、「G老夫婦に」侘び金として届け続けた。来る日も来る日も餅を搗き続けた結果、とうとう臼がパッカンと二つに割れてしまった。「NG老夫婦」の土地に臼に出来るような大木はもう生えていない。止むを得ず餅を搗く事を諦め、臼を燃やして灰にした。灰が樹木の肥やしになることを知っていた「NG老夫婦」は、「G老夫婦」の庭の、手入れ不足で枯れかかっていた木の根元に丁寧にその灰を撒いた。灰の効果は覿面で、みるみるうちに枯れ木は甦り、数え切れないほどの大きな花をつけた。そこに通りかかった大名がその花に感銘を受け、「G老夫婦」にこれまた金子を与えた。「G老夫婦」は、そのついでに仔犬の一件を大名に告げ口した。犬好きで知られる大名は、この話を聞いて怒髪を振り乱し、「NG老夫婦」を御縄にしてしまった。そして「G老夫婦」は、「NG老夫婦」の田地畑、家屋敷を全てせしめてしまったとさ》チャンチャン。 言うまでもないが『花咲か爺』はフィクションである。仮に『花咲か爺』が実話であったとしても、私の推論もそれはそれで成立するのである。一般に語られる『花咲か爺』と、私の『推論花咲か爺』と、読者諸賢はどちらに信憑性を見出すだろうか。世の中に数多蔓延る情報の中から真実を選び取るのは大変なことである。しかし、国民の大多数が永年に亘りその手間と努力を惜しみ、真実から目を背けてきたからこそ原発事故が起こったのである。今や国民総被曝国家となってしまったこの国において、「絆」などという甘ったるい言葉が、なんと虚しく響くことであろうか。「絆」で真実は見えない。真実を見極める土台となるものは「理」と「知」でしかありえないのだ。

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