2011年03月10日

宵は良き見世悪き見世

家無し嫁無し甲斐性無し 宵の帳が下りたれば 美禄を乞うて暖簾を揺らし 止まり木掴み此の夜独酌、と斯様侘しき晩刻を過ごす私ではありますが、酒さえ出てくればどんな店でもよい訳では御座いません。私には私なりの店の選択基準というものがあるのです。本稿ではそのあたりについて触れてみましょう。まず第一に、私が何よりも、どうしても、渋り腹の痛痒を堪えてでも優先する条件とは何でしょうか。「味!」と考えた貴方。まだまだですね。確かに料理の味は優先順位としてかなり上位に位置しますが、決して最優先事項ではありません。「酒!」と思った貴方。貴方は本当の呑み助を知らない。まあ好みの旨い酒が置いてあるに越したことはありませんが、私の様に酒神ともなると大抵の酒は文句も言わずに呑んでしまいます。そもそも、酒の銘柄や製法に必要以上に拘るのは、野暮で無粋な山出し者。とっても恰好の悪い事なのです。呑み屋によく居ますな。赤霧と黒霧の材料や製法の違いなんぞを滔々とまくしたててる手合が。嗚呼、恥ずかしや。そんな事はプロの造り手が知得しておればよい事、客である呑み手が按ずるような事ではない。黙って呑んで不味けりゃ違う酒を頼む、それで仕舞い。しかし斯く言う私もトリスとか変な合成焼酎とかああいうレベルの酒はいくらなんでも御免です。御勘弁願いたい。あんな酒を受け付けるほど臓腑は丈夫じゃ御座いません。さて次の方、、「じゃあ、店の内装や皿小鉢!」、ちょっと待ちなされ。貴方は私のブログを全然精読していませんね。前にも言ったでしょう。私は店の内装や食器などどうでも宜しい。色褪せたアグネスラムのポスターが貼ってあろうが、渡哲也がこちらに微笑みかけていようが、ビニールのテーブルクロスが被ってようが構いません。内装や皿小鉢なんてものは適宜清潔であれば何も気にしません。変に内装や食器に凝った店は却って小恥ずかしく居心地が悪いくらいです。どうぞ、次「店主、店員の態度や人柄!」、、なかなか鋭い意見ですね。私が最も嫌いなのはやたらと客に話しかけてくる店主。話をするかどうかは客の側が決める事、客から話しかけられない限り店主は黙って包丁を動かしていれば良い。更にどうしようもないのが、ちょっと知った顔が見えると、たちまちその客と一緒になって呑み始める店主。こういう店主は、「客と談笑するのも仕事のうち、営業の一環だ!」等と言う手前勝手な救いようの無い勘違い野郎なのです。バーやクラブならそれが当たり前かもしれませんが、居酒屋や割烹でそれをやってしまうのはプロ意識の欠片もない大ボケ店主と言えますな。プロの料理人なら、ただひたすらに味で勝負してみなさい、とでも言ってやりたくなります。そういう店主には、ホストクラブで働く事をお勧め致します。さてさて、しかし残念ながらこれも店を選ぶ場合の最優先事項ではありません。それでは、はいっ、次、「しからば値段!」、、、、、私は貴方の様な吝い吝い六日知らずとは終世、杯を交わす事は無いでしょう。和民か世界の山ちゃんにでも行ってアサヒスーパードライかなんかを呑んでなさい。では、皆さん分からないようですから、私が掲げる呑み屋の選択基準における最優先事項を発表致しましょう。それはズバシ!『客層』です!いかに料理が旨かろうが、好い酒を置いていようが、洒脱な器を使っていようが、高島礼子張りの女将が待っていようが、客層の悪い店には行きません。暖簾を潜って客に一瞥を投げれば、その店の全てが分かります。店にとっても私の様な客にとっても良い客層とは、客の平均年齢が40代後半以上であること。これが全ての基本になります。とにかく、客の平均年齢がこれ未満になると、味、客のマナー等、全てのレベルが著しく低下します。勿論、40代後半以上の客の中にも、酒の心得を知らぬ半ちくオヤジも散見されますが、客の平均年齢が40代後半以上に保たれていれば、そういった戯け者が混在する確率が極めて低く、安定した良質の客層となるのです。では良い客層とは具体的にどういう客の事なのか。一つ、とにもかくにも適度に静かで、呑んでも声が大きくならない客。二つ、笑い上戸の客がいない事。一人でゲラゲラゲタゲタ笑っている奴がいると、そいつが笑えば笑うほど他の客は白けます。三つ、料理だけでなく酒もしっかり呑む客。要するに店にとって手間がかからず、利益率の高い酒をしっかりと呑み、店にきちんと儲けさせる客。四つ、常連客が派閥を形成していない事。常連客が幅を利かせている店は、贔屓の引き倒し状態となってしまい、早晩潰れます。五つ、客が皆、閉店時刻を守っている事。背筋を伸ばして営業している店にとって、閉店時刻を過ぎてもダラダラと残っている客が一番厭なのです。店と客は、あくまで対等な関係である事を弁え、客であっても、呑んでいても、店主や店員の気持ちを常に慮る事が出来るのが一人前の酒呑みなのです。挙げればきりがありませんが、呑み屋の良い客層の具体例とは、まあ主にこんな所ではないでしょうか。あ、もう一つ忘れてました。3人以上のグループ客が勘定をする時など、レジ前で雁首揃えて「一人いくら?」 「6400円」 「あ、じゃあ俺が半端の200円出すよ」 「いいの?なんか悪いね」 こういうしみったれた割り勘もやめて下さいね。みっともないったらありゃしない。いい歳こいて。さて、お解り頂けたかと存じますが、良い店か、下品な店かは客で決まるのです。良い客こそが店を育てると言っても良い。貴方も胸に手を当てて考えてみて下さい。思い当たる節があるのではないでしょうか。えっ?一切無い?貴方は酒の心得を弁えた旦那のようですな。それはそれは、御見逸れ致しました。

 

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