2010年09月25日

正直な人々

私の貧家の周りにあるコンビニの店員は殆どが中国人です。そうだなぁ、数えたわけではないけれど、7割から8割が中国人といった感じです。まぁ、コンビニの店員が日本人だろうと中国人だろうと火星人だろうと北京原人だろうと、そのことそのものについては別に何とも思いません。私が必要な商品を売ってくれればあとはどうでもいい。ただ、中国人コンビニ店員は、おしなべて凄まじく愛想が悪いのです。終始不機嫌な面持ちながらも、「イラサマセ」、「アラタシタ」と言う者はまだましな方で、なかには徹底して無言を貫き、釣銭を投げるようにして客に渡す者までいます。それに比べて日本人店員は愛想が宜しい。どの店員も、ある程度ではあるが、きちんとしています。このような双極的事案を見た場合、読者の皆さんの殆どは、無愛想で投げ遣りで礼を失した中国人コンビニ店員の態度を不愉快でけしからんと感じ、最低限ではあっても一応の礼節を保持している日本人コンビニ店員を好しとするでしょう。しかし、私は違うのです。中国人コンビニ店員の態度の方が好ましく思え、買い物をしていても快適なのです。何故なら、中国人コンビニ店員は、自らの心状に対して正直である事が良く分かるからです。基本的にコンビニ店員は客に釣銭を渡し、「有り難う御座いました」と言います。ですが言うまでもなく、本当に心から感謝の気持ちが湧き出てきて「有り難う御座いました」などと言っている者などいるわけがないでしょう。コンビニ店員は経営者以外皆アルバイトです。経営者であれば兎も角、アルバイト店員が一人一人の客に対していちいち「お買い上げ頂いて有り難い」などと感じるはずはない。彼らアルバイト店員は時給で働いているのですから、客が多かろうが少なかろうが給金は変わりません。永く続けていれば時給は上がるかも知れませんが、それも申し訳程度です。忙しくても、暇でも時給が変わらないのであれば、暇で楽な方が良いと思うのは当然ではないでしょうか。ですから、本当は客なんて来ない方が良い。その結果店が潰れても、彼らは別のコンビニで、またアルバイトをすればよいだけの事です。このように、コンビニアルバイト店員にとっての仕事に臨む感覚は、日本人も中国人も何ら変わりありません。ところが、同じ状況にあっても日本人コンビニ店員は一定度の礼節を弁え、愛想が良く、中国人コンビニ店員は無愛想で失敬に見える。つまりこの事実を敷衍すれば、日本人コンビニ店員は自心に嘘をつき、笑顔を絶やさず、心にもない科白(いらっしゃいませ、有り難う御座いました)を仕事中延々と吐き続ける。一方、中国人コンビニ店員は自心に対して正直に、仏頂面で不貞腐れた態度で働く。私は、人が発する言葉というものに込められた心状をとても精緻に、大切に考えています。であるからして、有り難くもないのに「有り難う御座いました」なんて言って欲しくない。そんなの嘘なんだから。気持ちの悪い愛想笑いなんてして欲しくない。そんな日本人コンビニ店員を見ていると、「あなた、自分の心に嘘をついて、毎日毎日心にもない言葉を機械的に何百回も言い続けて悲しくなりませんか。情けなくありませんか」と言いたくなる。その意味で、中国人コンビニ店員の不貞腐れた態度は、実に正路で立派だと思います。少なくとも嘘がありません。ですから、私にとって中国人コンビニ店員の失敬な態度は大変好ましく快適なのです。毎日毎日自心に嘘をつき続け、嘘というものに対しての感覚が麻痺し、自分が礼儀という外套を羽織った虚言を弄している事実に何ら心の痛みを感じなくなっている日本人コンビニ店員より、よほど人間的です。そして、いつか中国人コンビニ店員が満面の笑みを浮かべ、心の底から「有り難うございました」と言った時、その言葉は、日本人コンビニ店員の手あかに塗れた言葉とは比較にならない重みを持つでしょう。銀座や秋葉原を闊歩する中国人観光客は一様に、必要以上に声が大きく、所作も粗野で下品に見えます。いくら私でも彼らの行動を不快に感じる事もあります。しかし、一点光る、中国人の自心に対する無様なまでの正直さには畏敬の念を覚えるのです。ここまで読んで、私の事を親中派と断じるのは些か早計です。私は、身近に散在する中国人の行動形態の一部を切り取って私見として好ましいと述べているだけです。中国に限らず、相手国が如何なる国であっても、対国家的相互理解は、永遠に不可能だと考えています。ですから、中国という国家に対しては特段何の感情も持っていません。数十年前の事を想起すれば日本人も、ニューヨークの高級ブティックに頓珍漢な出立ちで大挙して押しかけブランド品を買い漁り、マンハッタンの高層ビルを濫買するといった下劣極まりない愚行を働き現地人の顰蹙を買ったものです。故に、現在日本に押し寄せる中国人に眉を顰め、小馬鹿にしてせせら笑う一部の日本人は、自分達の過去の醜行を省観する事も出来ない大バカ者と言えるでしょう。我々日本人も、礼節という婉曲で、いやらしく、無意味で、単なる嘘でしかない鎧を脱ぎ棄て、無愛想で、無礼で、失敬な中国人の言動を少しは見習うべきではないでしょうか。相手の健康の事など何の心配もしていないのに「皆様の御健康を心よりお祈り申し上げます」とか、全然有り難くもないのに「誠に有り難う御座いました」とか言うのはやめましょう。そしてしかし、私が相手に「有り難う御座いました」と言う時、それは本当に心から「有り難や」と思料しているのです。 おしまい。

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